ここまでレジュメの基本設定について説明してきました。これに基づいて見やすいレジュメを作成するわけですが、そもそもの目的はそれではありません。見やすいレジュメを作ることで、プレゼンをうまく進めることこそが目的です。
とはいえ、レジュメ作成の技術は、プレゼンの本番で配布するレジュメにしか使えないわけではありません。準備の際にも、レジュメ形式で内容をまとめていけば、効率よく作業を進められるし、内容も洗練させやすくなります。
というわけでここからは、レジュメ作成の技術を用いながら、どのようにプレゼンの準備をしていくのかについて説明していきます。
目次
プレゼンのテーマと目的
プレゼンのテーマは、あらかじめ決まっている場合もあります。たとえば「自社の製品の○○の売り上げを伸ばすためのプラン」というテーマの場合です。この場合は、テーマが目的として定まっているので、それを達成するためのより優れた方法を示す必要があります。たとえば、さらに積極的にメディアにコマーシャルを出す、販売店への営業を増やす、といった手法に関して、これまでよりも良い具体案を示すことが、より優れた見方を示すことにつながります。
これとは別に、大学のゼミ発表などのように、テーマがあらかじめ定まっていない場合もよくあります。大まかな専攻分野はすでに定まっているかもしれません。たとえば文学、経済学、歴史学など、もしくはもう少し限定された国文学、現代日本の経済、日本史と言った専攻分野です。とはいえ、あくまでも大まかな方向性にすぎないので、それに沿って自分でテーマを定めねばなりません。そのうえで、テーマに関するより優れた見方を示すことが目的となります。
となると、プレゼンを行うにあたって、テーマの定め方とより優れた見方の示し方を身に付ける必要があります。そのどちらにとっても重要となるのが、「なぜ」を伴う問いとその解明です。
「なぜ」の重要性
「なぜ」は英語で言うとwhyですが、これを含む6つの疑問詞は、プレゼンのみならず様々な情報伝達の場でしばしば重視されています。「who(誰が)」、「when(いつ)」、「where(どこで)」、「what(何を)」、「how(どのように)」、そして「why(なぜ)」であり、頭文字を集めて5W1Hという略称で呼ばれています。この6つをきちんと伝えれば、情報を分かりやすくかつもれなく伝えられるからです。
プレゼンの際にも、これらの問いにきちんと答えるように内容を作成すれば、相手を納得させやすくなります。ただしこの5W1Hのなかで、プレゼンでテーマを定めてより優れた見解を示すために、他の5つよりも特に重要なものこそが「なぜ」です。
それまでよりもさらに優れた見解を提示するためには、それまでの見解の問題点を見出さねばなりません。その際に「なぜ」以外の問いをするだけでは、それまでの見解がたどってきた筋道をなぞった事実の確認に留まる場合がほとんどです。これに対して「なぜ」は、「なぜこのように言えるのか」「なぜこのことを取り上げないのか」というように、それまでの見解に異を唱えやすいのです。
たとえば、「平安京への遷都」をテーマに選んだとします。「なぜ」以外の問いは、ほとんどが事実の確認に留まります。基本的なことをいえば「誰が」は桓武天皇、「when」は794年、「where」は京都、「what」は天皇を中心とした都、「how(どのように)」は長岡京からの移動、となるでしょう。これらはごく基本的な事実にすぎず、もっと詳しい事実をいくらでも調べられるでしょう。ですが、事実の多くはしばしば細かいところまですでに調べられているし、細かい事実は事実そのものに対する補足にとどまる場合がしばしばあります。言葉を換えれば新しいものを見出すというよりは、すでに定まっている事実を補うための問いに終わりかねないのです。
たとえば、平安遷都の日時を詳しく調べれば、794年11月22日(旧暦10月22日)と分かります。ただしこれだけでは、すでにわかっている単なる細かい事実にすぎません。11月であることから平安京遷都に対する何かより優れた見方を示せてこそ、日付までの細かい事実を述べる意味があるのです。
そのためには、「なぜ」11月なのかという問いが、最も有効な問いになります。というのはその問いの先に、より大きな問いである「なぜ」平安京遷都が行われたのか、という問いへとつながる可能性が高いからです。この問題の解明を通じて、それまでよりも優れた見方を提示できれば、より優れたプレゼンとなります。このように「なぜ」を含む問いは、目的を定めるという点においては、他の5つの問いよりも重要なのです。
「なぜ」が最も重要なのは、すでに目的が定まっている場合でも同じです。この場合には、最終的には「どのように」行えば目的を達成できるのかを示さねばなりません。となると、「どのように」が最も重要であるかのように見えます。ですが、「どのように」をただ提示しただけでは、根拠のない机上の空論になりかねません。そのように行えば、「なぜ」目的を達成できるのかという根拠に、いかに説得力があるのかこそが重要なのです。
たとえば、「自校の学生の読書冊数を増やすためのプラン」と目的が設定されていたとします。プレゼンでは「学校付属の図書館の図書数を増やす」という見解を提示したとします。しかし、蔵書数が増えても学生が図書室へ本を借りに来るとは限りません。「なぜ」蔵書数を増やせば学生の読書冊数も増えると言えるのか、という根拠を示さねばなりません。それによってこそ、蔵書数を増やすという見解の説得力が高まることにつながります。
このように、プレゼンの目的が定まっていても、「なぜ」という問いがやはり重要となります。
テーマの設定とウィキペディアの利用
新たな見解を見出すためには「なぜ」が重要ですが、もしテーマが決まっていなければ、まずは、どのようなテーマに関する「なぜ」を探していこうとするのかを定める必要があります。
テーマを定める場合、一般的には自分が関心を抱いているジャンルから見つけます。そのうえで大切なことは、いかにテーマを絞れるかです。テーマが大きすぎれば、調べることがあまりにも多すぎて、プレゼンとしてまとめきれません。結局は、通り一辺倒のことしか言えず、それまでの見解をなぞるにとどまり、新たなより優れた見解の提示もできなくなります。したがって、1回のプレゼンに収まるようなテーマへと絞り切れているのかが重要となります。
テーマを絞るためには文献を読んでいきながら見つけていく方法が、一般的には奨められています。ですが、これにはある程度の知識がないとやや困難です。どこが重要であってどこに問題があるのかを、まだ見いだしにくいからです。知識がそれほどない段階ならば、ネット上の事典であるウィキペディアを使うと便利です。
ウィキペディアは、しばしば信頼性が低いと批判されます。条件を満たせば、自由に書き直したり書き足したりできるので、誤った情報が書かれている場合も珍しくないからです。とはいえ、書籍として発行された百科事典やそれに基づいたネット上の事典ならば、ウィキペディアよりも絶対的に信頼できるのかと言えば、そうではありません。確かにウィキペディアの文章はしばしば書き換えられています。けれども、常に最新の情報に基づいた内容に書き換えられているとも言えます。これに対して、印刷された文献に記された情報は、書き換えられないために古い内容で留まり続けてしまう危険があります。
さらに、信頼性に問題があったとしても、アイディアを探すという点では、他の文献やサイトよりも便利な点がウィキペディアにはあります。それは、他の事項へのリンクの豊富さです。
ウィキペディアには様々な内容についての事項の記事が収録されているだけではなく、事項内に記されている別の事項の記事へのリンクがいくつも貼られています。リンクをたどっていけば、様々な事項の説明を読み続けられます。そのため、興味を持ったテーマに関する多くの情報をひとまとめにして得やすいのです。
ウィキペディア以外のネット上の他の事典でもできる場合もあります。ですが、常に情報が書き替えられて、新たな事項が付け加えられ続けているウィキペディアに優るサイトは、いまのところ存在しません。というわけでウィキペディアは、プレゼンに関するアイディアのとっかかりを得るためには、とても便利なのです。
そのアイディアをとりあえずの調べるテーマにします。それを最後まで中心的なテーマにしなければならないわけではありません。あくまでもまずはそれを中心的なテーマとして調べていき、調べていきながらテーマを変えても構いません。あくまでもまずはとっかかりとして、何らかのテーマを定めるというわけです。
なお、知識が深まってくれば、最初にウィキペディアでとっかかりを得なくても、文献を読みながら新たなテーマを探すことも可能となります。なので、以下に挙げていくウィキペディアを使ったテーマ探しの方法を、文献を読みながら行うことも可能になってくるでしょう。いずれにせよ、ウィキペディアを使ったテーマの探し方を使いこなせる様になれば、文献を使ったテーマ探しもうまくできるようになっているでしょう。
レジュメのファイル作成と下準備
テーマを定めていくときから、調べたことをレジュメでまとめていくと、後でプレゼン用のレジュメに素早く直せます。そこで、まずはレジュメのファイルを作成してしまいます。フォーマットのファイルをコピー&ペーストして、ファイル名を付けます。ファイル名には、プレゼンの発表年月日とその後ろに発表場所もしくは予定のテーマを付けると、フォルダにファイルがたくさん増えた際に探しやすくなります。たとえば、「20201010-山田ゼミ(レジュメ)」「20201010-○○について(レジュメ)」というファイル名です。
ファイルを作成したら、まずはレジュメの基本情報を入力します。自分の所属や名前など以外は、仮のもので大丈夫です。タイトルは「タイトル」のままでも構いませんし、「○○について」でも構いません。タイトルは後で決めるべきものだからです。
タイトルは、参加者にプレゼンを印象づける大切なものです。だからこそ、全体の内容が整った後に改めて付け直します。なので、最初のうちは仮のもので構いません。
まず、「はじめに」の大項目に入力していきます。入力するのはどのようなテーマにするのかについてのメモです。冒頭には、ウィキペディアで閲覧したページ名を順番に並べていきます。そのうえで、気になった情報を箇条書きでメモ書きしていきます。これらはテーマを定めるためのメモにすぎないので、プレゼンで配布するレジュメでは大きく手直しをすることになります。ですが、作成の段階では目に見える形でメモとして残しておくと、プレゼンをまとめていきやすくなります。
箇条書きは、簡単な法則に則ってまとめていくと便利です。たとえば「・」の項目にはウィキペディアの項目から分かる事実を書き、1つ段階を下げた「⮚」の項目にはデータに基づく推測を書いていきます。そのうえで、さらにもう1つ段階を下げた「◇」では、そこから導き出される自分のとりあえずの考えを記していきます。これはあくまでも一例ですので、必ずしもこれに従う必要はありません。とはいえ、項目内の箇条書きに共通したルールを定めると、内容だけでなく見た目でも流れをつかめるため、内容の理解を促しやすくなります。
なお、もし箇条書きの設定が上手くいかない場合は、すぐ上にもすぐ下にも項目名がない行で設定をしてみてください。
ウィキペディアを使ったテーマの探し方のサンプル
調べ方の一例を簡単に取り上げます。たとえば、プレゼンテーションをウィキペディアで調べてみます。
ウィキペディアには、そのまま「プレゼンテーション」の項目があります。その冒頭には、「プレゼンテーション(英: presentation)は、情報伝達手段の一種。聴衆に情報を提示して、理解を得るようにするための手段である」と書いてあります。さらに、読み進めて「概念の範疇」の節を読むと、「プレゼンテーションという概念は、古代ギリシャの哲人アリストテレスの著作『弁論術』に遡れる」とあります。『弁論術』に別項目へのリンクがありますので、クリックしてみます。
すると、「弁論術 (アリストテレス)」の項目へ飛びます。その冒頭には、「古代ギリシャの弁論術を理論的・体系的にまとめ上げた古典の傑作」とあります。そもそも「弁論術」とはどういうものなのか、さらに「弁論術」をクリックすると、「修辞学」の項目へ飛びます。項目名のすぐ下に、「(弁論術から転送)」と補足があり、弁論術は修辞学と呼ばれるのが一般的なようです。では修辞学とはどういうものなのかと言えば、「西洋に古くからある学問分野で、その起源は古代ギリシアにさかのぼる。」とあります。さきほどの説明と同じように、古代ギリシャにまで遡ることになります。
となると、プレゼンテーションの歴史は2千年も前にあることになります。なぜプレゼンテーションは2千年も続いて受け継がれることができたのでしょうか。もちろん古くから受け継がれてきたものは今でもたくさんありますが、それはたいてい受け継がれることにメリットがあったからです。となると、プレゼンテーションにも同じように理由があるはずです。この何故の理由を調べてみるのは面白いかもしれません。というわけで、なぜプレゼンテーションの概念は2千年前から受け継がれてきたのかをとりあえずのテーマにしてみます。
ここまでのことを箇条書きにまとめると、以下のようになります。
一番上の箇条書きはウィキペディアの項目を見た順番です。一行空けて書いてあるのがまとめた内容ですが、とりあえず、読んだ内容の中できになったものを「・」の行にまとめていきました。その上で、考えたことを「⮚」に書き足していき、テーマになりそうなことを「◇」に書いていきます。
あくまでもこれは箇条書きの使い方の一例であり、必ずしもこうしなければならないというわけではありません。もし、使い方が特に思いつかない場合はこのサンプルに従ってみてください、その上で、自分が使いやすいようにアレンジしていけばいいでしょう。
まとめ
ここまでのことをまとめると以下のようになります。
- プレゼンのテーマは絞る必要がある
- テーマを決める際に重要なのは「なぜ」である
- テーマに関する知識がまだ浅い際には、ウィキペディアを興味に基づいてどんどんと読んでいきながらテーマを探すと良い
- レジュメ形式でテーマ探りをまとめていくと、分かりやすい
テーマを定めた上で大事になってくるのは、以下にしてそれまで示されていない見会を導き出すのかです。続いては、新たな見解の探し方について見ていくことにします。
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